2nd day: 5月3日 (憲法記念日)
◆ 平壌の朝 #1・万景台

 朝7:00、今回デビューの女子ガイドのモーニングコールで起こされる。森健ガイドの声で起こされてたらもう少し寝起きは悪かっただろう。ロビー下手の奥のエレベータを3階に上がったホールで朝食。内容は忘れたがバイキング形式の朝食だった。相変わらずの色気のないレパートリー。あまり食欲がなかったのでジュースと他には少しだけ食べる。


 再びロビーに集合し、いよいよツアー本番なのである。オンボロハイエースに揺られこの日の一カ所目である万景台(マンギョンデ)に向かう。万景台は金日成の生家のある所で観光客は必ずここへ連れて行かれる。まぁ金日成詣でその一である。公園は芝生が青々としてかなりキレイに整備、手入れがされている。さすが金日成生誕の地である。見学者はいわゆる海外からの観光客だけでなく、北朝鮮の人々も多く訪れる場所のようである。


 金日成の若き日に家族で使っていた農機具や壷など様々なものが展示してあるのだが、どれもごく最近作ったかのように新しいものばかりである。たぶんここで「これは最近作ったモノなんですよねぇ?」などと言う質問は禁句なのであろう。自分も含めツアーメンバーの誰もそんな事にはあえて触れないのである。みんな空気を読んでの事なのである。ピンクシャツのバカはとにかく何でもかんでも写真を撮りまくる。撮ればなんでもいいってぐらいに撮りまくる。写真を撮っても怒られないと分かると一枚でも多く撮らないと損とでも思っているのだろうか?品がないのである。


 万景台で金日成の生家やその歴史などを説明してくれる30代前半とおぼしき女性案内員がいたのだが、実はこの女性を以前テレビのニュースで見た事があったのだった。その時はある日本人旅行者がその女性案内員が話す金日成の歴史についてことごとく噛み付いて、たいそうその女性案内員を困らせている映像だった。北朝鮮で常識となっている金日成の年齢や出身地などは実はかなりマユツバな事が多いらしく、そんな事をしつこく突っ込む日本人旅行者にその女性案内員はひどくプライドを傷つけられたらしく涙目になっていたのでした。空気の読めないオヤジなのである。僕らはそんな無益な争いを北朝鮮くんだりまで来てする気はないので「そ〜ですかぁ〜」と素直に聞いているのである。で、時々良い質問などをして友好ムードを作るとより革命的な旅行者となれるのである。


 金日成の生家すぐ横に金日成が使ったと言われる井戸があり今も水が湧いている。飲めるとは言わても海外で生水を飲まないのは基本中の基本なのだが、トヨタの角刈りは旅の思いでとでも思ったのかグビグビ飲んでいた。


 金日成の生家の見学の後は万景台の丘を登り平壌市内が一望できる展望台に向かう。相変わらずキレイに整備されていて、さすが建国の父生誕の地であると痛感させられた。我々一行は大変革命的な見学が出来たとこの地を後にした。








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金日成像

 再びオンボロハイエースに乗り平壌名物の地下鉄見学。ウワサ通り地下に深く入って行く。この深さと言ったら大江戸線以上の深さ。都内では他に多数路線が行き交い深くせざるを得ない理由があっての事であるが、ココ平壌の地下鉄はナゼこうもムダに深いのか?やはり軍事目的なのか?平壌の地下鉄の車両は日本の地下鉄車両より小さく、古い。そして車両も短い。日本のように「降りる人優先」なんて暗黙の了解などなく、モタモタしてると押し寄せる人波にもまれて降りそびれそうになる。そしてココでもそうだが、駅の壁には一面に金日成、金正日を讃えるかのようなきらびやかな壁画や装飾がなされている。実際に見た駅は乗車駅と下車駅だけだったのだが、実はソレ以外の駅はションボリな駅だったりして。ホントは二駅しかないとか!?真相解明が待たれる!


 地下鉄から出るとすでに地下出口付近ですでに待っていたオンボロハイエースに乗り噴水公園に向かう。先ほどの芝生の青々とした、木々の生い茂った万景台の丘とはうって変わって、町中の公園と言う雰囲気で名前の通り公園の池からは沢山の噴水が吹出している。


 ここでチマチョゴリのお姉さんに遭遇(タイミング良すぎ?)。何かと思ったら「花を買って下さい」だそうです。何かよく事情が分かってなかったがオイラとトヨタの角刈りで半分づつお金を出し合って一束買った。ピンクシャツのバカはまたチェキを取り出して花売りのお姉さんの写真を撮って渡してた。かなりケムたいのである。軽い殺意を抱いてしまいそうになった。そしてこのあとようやく金日成像とご対面なのです。


 ナマで見る金日成像はかなりデカイ!上げた右手の先までで約30mなんだそうである。高崎観音は41.8mなのでそれよりちょっと小さいのである。でもデカイ!。北朝鮮に来た!って気がするし、来た!って言う証拠にもなるのだ。


 小高い丘の上の金日成像は左右に大きな革命烈士の銅像を従え堂々とそびえ立っている。そして像の見据える先には平壌市の一望と大同江の対岸の主体思想塔が見える。ここで先ほど噴水広場で買った花を金日成像に手向ける事になった。ピンクシャツは以前来た時にやったので他に譲ると言う。オイラはなんとなく気分が乗らなかった。いくら北朝鮮建国の父とは言えもろもろの問題を思うと率先して花を手向ける気にはならなかったと言うのが本音なのだ。と、そんな空気を読んだか読まぬか、あるいは割り勘とは言えわざわざ自分でお金を払って買った花だからなのかトヨタの角刈りがその役目を買って出た。微妙な役目を押し付けられなくて良かったのである。


 で、トヨタの角刈りは一人スタスタと花を持って金日成像のたもとまで歩いて行き寸前で止まった。そして深々と金日成像に頭を下げるのでした。と同時に森健ガイドと今回デビューの女子ガイドも同時に深々と銅像に向かって頭を垂れ始めた。ピンクシャツのバカも頭を下げていた。「え”〜って言うかオイラもなの?!」ってのがその時思った事。三人より一歩後ろに立っていたオイラは三人が深々と頭を下げているのを上目遣いで様子をうかがいながらとりあえず頭を下げるようなそぶりをしたのでした。革命的観光旅行者失格なのである。


 今回のガイド二人は想像以上にくだけた感じのいわゆる北朝鮮の人のイメージを覆す人達だったのではあるが、この場面では天皇に頭を下げる昔の日本人のようであった。やはり革命的な北朝鮮公民はここでは神妙な気分にならないといけないようだ。








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◆ 主体思想塔

 微妙な気分を味わった金日成像を後にして次に対岸の大同江沿いにある主体思想塔に向かったのでした。到着後まずは恒例の写真撮影会。ピンクシャツとトヨタの角刈りは二人そろって主体思想塔の写真を撮ったり、お互いに塔を背景に写真を撮り合ったり、まぁ勝手にしたらいいのである。塔の展望台入り口には世界中の主体思想研究所から送られた塔の完成を祝うパネルが飾られていた。中には日本からのモノもあった。


 塔に入ると薄暗くて少し湿気っぽい長い廊下が伸びていた。我々はその先のエレベーターに乗って塔の頂上に向かった。エレベーターを出ると目の前に平壌の空が広がっていた。頂上は石作りで狭かったが大同江を中心に平壌中が見渡せた。しかし展望台はオープンエアーでホテルの窓同様落下防止の策は全く取られていなかった。胸までの高さの石作りの柵はあるのだが下をのぞくとゾゾっと背筋に何か走るのでした。高所からみた平壌は多少空はくすんでいるものの整然と道路が走り日本の無秩序な都市計画の真逆を行っているようだった。ディテールの見えない俯瞰の風景はキレイなものに見えた。


 塔を下りると入る時に通った薄暗い廊下の扉を入った売店で買い物をした。主体思想塔のオブジェとお土産用の北朝鮮バッジを購入。ピンクシャツとトヨタの角刈りは北朝鮮国旗のバッジを買うとその場で自分の胸に付けご満悦なのであった。バカなのである。


 次に向かったのは前の晩にリクエストした書店に向かう。書店は再び大同江を対岸に渡った場所にあった。書店の入り口には空港からの道中見た看板の北朝鮮製の自動車が止まっていた。今まで北朝鮮で見た車はベンツやBMWなどの高級車や日本の中古車みたいなのばかりでソレ以外の車を見たのはこれが最初で最後だった。北朝鮮の車なのに…。しかし、よく見るとその車はほぼFIATで後ろのトランクの所に大きく筆文字のハングル文字でエンブレムが入ってる所が違うだけのようだった。今の北朝鮮国内で自動車を一から作る工業力はないようである。


 そして書店。初日に入ったレストラン同様、日本のような看板などはなくソコが書店と知らなければ書店とは分からないたたずまいである。女性店員が二人いたが、どうも我々ツアーに合わせて店を開けたような雰囲気。店内も商品の数は少なくホテルの書店の品揃えと同じくらいかと思われた。場所が狭い分ホテルの書店のほうが商品が詰まっている感じがした。ココでは本一冊とアリラン祭のバッジを買う。
 書店を出ると交差点に北朝鮮名物の交通整理のお姉さんが仕事中だった。またもやピンクシャツとトヨタの角刈りは歩道際まで駆け寄って写真を撮りまくっていた。オイラも一枚くらい写真をと思ったが、二人のバカな姿を見たとたんそんな気分はなくなってしまった。二人そろって何処までいってもバカなのである。




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◆ 金日成広場 → プエブロ号

 ここで一旦昼休憩である。昼食は平壌名物玉流館での冷麺。広いホールに通されると、とりあえずビールをたのむ。森健ガイドも仕事中なのに飲む。観光ガイドの既得権益なのだろうか?
 前菜にプレーンなチジミと水キムチが運ばれて来た。水キムチは日本で売ってるキムチと違ってサッパリしててイケル。でしばらくすると冷麺が運ばれて来た。底の薄い器に入った茶そばのような色をしているのが元祖朝鮮冷麺でカツオだしのようなスープで具がその上に乗っている。グニグニとグミを柔らかくしたような食感で七味とかをかけて食べるとサッパリしてオイシイ。
 夏の食べ物としていいと思ったが本来は真冬にオンドルでガンガンに暖めて部屋で食べるのがホントらしい。まぁそんな事平壌に住んでる金持ちしか出来ないんだろうけど。


 昼食後、大同江沿いの公園に移動、と思って見るとそこは軍事パレードなどが行われる金日成広場だった。川べりからずっと遠く数百メートル先まで広場は広がっていてその先には大きな建物が建っている。ふと気づいて石畳の地面を見ると等間隔に点々とペンキで白くマーキングがしてあった。そうなのだ、パレードに集まる群衆がみんなビシっとキレイに整列出来るのはこのマーキングのおかげなのである。ここに来なければ分からない面白い発見なのである。


 この川べりの広場には何故か次ぎから次へと着飾った新婚さん達がやって来て記念写真を撮って行く。まさか毎日こんなだなんて事はないと思うのだが…、仕込みだろうか…。ピンクシャツはその中の新婚さんと一緒に写真を撮ってもらおうとズケズケと立ち入って行くのだがみごとに断られる。ざまぁ見ろなのである。でも結局次ぎに来た新婚さんと一緒の写真を許される。もうなんでもアリな奴なのである。



 つづいて金日成広場前の大同江に浮かぶプエブロ号見学。プエブロ号は60年代に北朝鮮によって拿捕されたアメリカの船で乗組員は返されたが船は今もこの北朝鮮に残されたままになっていて、北朝鮮がアメリカに勝った証拠の一つとして展示さてれている。
 プエブロ号の説明は元軍人だった老人が行っていた。日本語は話せないので森健ガイドが通訳をする。船内は狭くすすけていてあまり長居はしたくない感じ。最後にプエブロ号事件のDVDを見せられたがヘタったVHSからDVDに焼いたようで画像は乱れまくりだった。自国の正当性を説明するにはいささか説得力に欠ける画質だった。
 プエブロ号を下りて説明をしてくれた元軍人だった老人との別れの間際、ピンクシャツが再び動いた。勿論この元軍人の老人との記念写真である。ピンクシャツは森健ガイドにカメラを渡すと神妙な顔つきで元軍人の右横に立った。そしてピンクシャツの右手は顔の横にスッと上がって行き、" 敬礼 "のポーズとなった…。シャレなのかホンキなのか理解に苦しむ行動なのである。








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◆ 万景台少年芸術宮殿

 昼食を済ませた我々一行は次の見学地である万景台少年芸術宮殿に向かった。トヨタの角刈りはサーカスが見たい、との事で森健ガイドとともにそちらに。ピンクシャツも一緒にいなくなれば良かったのに…。

 で、ここはよくテレビなのでも紹介された満面の笑みを浮かべた子供達が歌ったり踊ったりしている所である。建物は白く巨大で入り口付近のホールも美術館か劇場のように立派なのである。入り口のロビー付近には我々の他に中国からのツアー客やヨーロッパからとも思われるツアー客もいた。そこに現れた、多分小学校5〜6年生ぐらいと思われる女の子に案内されて我々ツアー客はぞろぞろとその後について行くのでした。途中その女の子が何やらイロイロ説明をしてくれるのだが、声が小さいのか場内が広くて声が届かないのかよく聞こえなかった。その事について今回デビューの女子ガイドは「声が小さいのよねー!」と少しおムズカリのご様子だった。

 彼女はこの女の子の話を日本語に通訳しなければいけないのに、これじゃぁちゃんと仕事が出来ないじゃないか!とでも思ったのだろう。非常に仕事熱心でマジメなお嬢さんなのである。おせっかいオバサンならウチの息子の嫁にどうだい!なんて言ってしまうのかもしれない。


 ここ万景台少年芸術宮殿は放課後の子供達が集まって来て、歌や楽器、習字や刺繍など日本で言う習い事のような事をする場所だそうだ。いくつも部屋を出たり入ったりしながら子供達の練習風景や歌や楽器演奏を見学した。最後に室内プールに通されたのだがここで水泳をしている子供達は練習をしてると言うよりただ遊んでるだけのようだった。放っとかれると子供はすぐに遊び出すものである。


 幾つも教室を見学して、なぁんだコレだけだったらサーカスでも良かったなぁ。なんて思ってたら最後に万景台少年芸術宮殿内の劇場に通された。この劇場はなんだか昭和の雰囲気のある、まぁ古い感じではあったが、オーケストラピットもちゃんとある立派な劇場で観客も1000〜1500人くらいは入りそうな大きさだった。そこに本日の万景台少年芸術宮殿見学ツアーのお客が集められた。お客の多くは中国からのツアー客で他にはヨーロッパからの人達も少々、そして別チームの日本人ツアー客もいたのだった。

 ちなみにこのゴールデンウィークに北朝鮮入りした日本人ツアー客はだいたい20人くらいだったそうだ。他には、最初は日本人ツアー客かと思ったがホントは日本の朝鮮高校の修学旅行の生徒達の集団もあった。彼ら彼女達は国籍こそ朝鮮籍ではあるが、日本で生まれ育っている事もあってか、どう見ても髪の毛の茶色い渋谷にいても違和感のない感じだった。この中から何人かは高校卒業後、北朝鮮の大学に留学する人達もいるそうだ。

 今回デビューの女子ガイド曰く、日本からの留学生は入学当初こそ、今時の日本の若者のように髪の毛を染めていたり、洋服も日本の他の若者と大差ない格好をしているそうだが、時間が経つとともにみんな北朝鮮の若者のようになって行くらしい。みんな日本の堕落した生活態度から革命的な大人になって行くって事なのだろうか。


 ってな事を考えていると、ステージに女の子が現れ、独特な抑揚を付けた話方の宣誓?から舞台が幕を開けた。歌や踊り、楽器の演奏と盛りだくさんだったが、舞台の盛り上がるところですかさず後ろのスクリーンに金日成の肖像が投影されるあたりこの国らしいと思った。

 子供ばかりの舞台ではあるが内容的にはかなり完成度が高いと思った(多少古くさい感じもあるが…)。独特な作り笑顔やクセのある歌い方、話し方もコレはコレで一つのスタイル、伝統芸と思えば純粋に舞台を楽しめるのでは…と思った。思いの外満足度高めな見学であった。










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◆ 夕食はアヒル

 ちびっ子達の歌と踊りを堪能した後は日もやや傾きかけた頃で我々一行は本日の夕食と言う事になった。トヨタの角刈りはサーカス見学後万景台少年芸術宮殿に来たそうだがオイラ達がここで前半に見た教室見学後の舞台は見れたそうだ。チョットお得だったのである。

 で、夕食。この日は焼肉と聞いていたのだが、焼肉は焼肉でもアヒルの焼肉であった。日本でアヒルと言えば北京ダックぐらいしか思い浮かばないが、ココ北朝鮮では普通にアヒルを焼肉で食べるらしい。スタイルとしてはいわゆる日本の焼肉と同じスタイル、同じような焼肉プレートの付いたテーブル。そして肉と一緒に野菜も添えられている所まで焼肉スタイル。違うのは牛ではなくてアヒルな所なのである。北朝鮮で焼肉と言ったらアヒルなんだろうか?


 結論を先に言うと…、まぁオイシかったです。食感はアヒルと言えども鳥なので、鳥の感じなのだが日頃日本で食べているニワトリと比べると微妙な甘さが残る。あとニワトリに比べたら少し油分が多いかもしれない。このアヒルの焼肉のシステムは黙っていると椀子そば同様次々と運ばれて来るようになっているようで、オイラは適当なところで止めておいたが、トヨタの角刈りとピンクシャツはさらにもう一皿とゴハンをたのんでバカスカ食べていた。アヒルの焼肉がお口に合ったようで何よりである。旅行中の暴飲暴食には要注意だと思うのだが…、まぁお好きなように。




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◆ アリラン祭 #1

 夕食の後はいよいよ今回の旅行のメインディッシュであるアリラン祭観覧である。前日言われてた事であるが、問題は特等席の5万円である。一等席にして多少安く済ます事も出来るのだが、ココは一つ、せかくのアリラン祭である。漢(オトコ)は黙って特等席!に決めたのである。で入場料金は何故か森健ガイドに渡した。まぁガイドなのでその辺の事はやってくれるのだが、日本出国前のレートでいいよって事で2千円引きの4万8千円って事になった。って言うかアンタ勝手に値段決めていいんかい?!まぁそのカラクリは日本円で料金を支払っている事にありそうだ。思わぬ値引きだったので深く考えずヨシとしとこう。ちなみにトヨタの角刈りとピンクシャツは根性ナシの一等席でこの見学も二手に別れての行動となった。


 我々を乗せたオンボロハエースはアリラン祭が行われるメーデースタジアムに近づいてきた。スタジアムの周りにはこれからアリラン祭観覧に向かう人達や出演すると思われる衣装を着て楽器を持って並んでスタジアムに向かって歩いて行く学生の一団など、とにかく沢山の人の群れでごったがえしていた。

 スタジアム前に着くと我々一行はオンボロハイエースを下りてスタジアムへ向かった。トヨタの角刈りとピンクシャツは森健ガイドと共に、オイラは今回デビューの女子ガイドと共にスタジアム内へ入って行った。女子ガイドと一緒で良かった。

 スタジアムの中からはすでに集団のかけ声が外まで響いていた。否応無しに気持ちはアガって来るのである。何か公演やライブの前でも平常心なオイラではあるがこの時は久しぶりに期待と興奮がふつふつをわき上がってくるのを感じた。オイラがこんなだからトヨタの角刈りとピンクシャツはもっとだろう。


 特等席の客だからなのか並んだりとか待ったりと一切なくあまり人のいない入り口から中へ案内されスタジアムの観客席へ向かった。扉が開かれると目の前に眩しい光に照らされた広いスタジアムが目に飛び込んで来た。向かいのスタンド席は数千の人々と思われる集団が手に持ったパネルをかけ声と同時に次々と翻し人文字を映し出していた。スタジアムの外まで響いていたかけ声はこのパネル転換の時のかけ声だったのだ。数千の人々のかけ声と同時に目の前の風景がどんどん変わって行くシーンは壮観そのものだった。しかしこの壮観な風景もまだまだ本番ではなく単なる出演者達の肩ならしなのだ。

 そして我々二人は特等席に付いた。特等席の場所は本来客席のある場所ではなくスタジアム全体が一望できるど真ん中の場所でそこにクロスをかけられたテーブルとパイプ椅子がずらっと用意されているだけだった。椅子やテーブルの安っぽさが気にならないくらいのベストポイントなのである。日本で言うと野球などの天覧試合などで天皇とかの位置なのである。さらに特等席のうれしい特典としてはなんとシンガポール製のポッカミルクコーヒーと中国製のチョコバーがアメニティーとしてテーブルに置かれていた。




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◆ アリラン祭 #2

 特等席はさすがに値段がべらぼうと見えてオイラとその隣の女子ガイドの他は数人しかいなかった。かたや一等席になるともうスタンド席になってしまう。みんなと一緒で特別扱いではないのである。二等席は一等席の下のブロックで位置が低いのでマスゲームのような時には俯瞰度が低いのでイマイチなのであろう。4万8千円は損した気分にはならなかったのだった。金日成、金正日も同じ位置で見たのかと思うと非常に革命的な気分にもなれるのである。


 そうこうしているとパっと照明が消されついに開幕である。実際に見るまでは人数の規模が違うだけのマスゲームかと思っていたが、それ以外にも正面のスタンド全てを使った横になが〜いプロジェクション映像やスタジアム高所に左右に張られたワイヤーで人が空中を横切ったり何かと盛りだくさんの大迫力なのである。

 マスゲーム全体を通してストーリー仕立てになっているようで金日成が故郷を離れ、抗日パルチザンになり凱旋帰国して建国の父となる、と言った話のようだ。そして最後は朝鮮が一つになり世界に君臨する、という感じらしい。万景台少年芸術宮殿同様盛り上がりのいい所で金日成の肖像が巨大画面に大映しになるといった演出であった。

 様々な演出も凝っていたがやはり数万人の一糸乱れぬ動きを目の当たりのにするとどんな人でも圧倒されるのである。出演者の並んだ風景は縦横だけでなく斜めにもビッシリきれいに並んでいるのである。こんなにも乱れないのは凄いと思っていると思わぬ事故が起きたのだった。


 幾つ目かのプログラムの中でちびっ子マスゲームがあった。小学生の低学年くらいの子供達が演技するもので横から今回デビューの女子ガイドにこのプログラムは金日成主席もお気に入りだったと説明された。

 無事演技を終えてスタジアム手前に整列したちびっ子達た観客席に向かって手を振って退場して行こうとしていた。その時。ちびっ子達が通り過ぎた地面にポツ〜んと一足の靴が残されていた。「アレ!」と思った刹那、行き過ぎようとしているちびっ子の列から一人のちびっ子がその残された一足の靴に駆け寄りそれを素早く拾い上げ再び隊列の中に消えて行ったのである。あまに一瞬の出来事だったがオイラの目とカメラのレンズはその瞬間を見逃さなかった。

 これだけ統制がとれているとほんの些細な事でも重大な乱れに見えてしまうのである。こんな大舞台で思わぬ失態を犯してしまったちびっ子とその家族がこの後大きな問題に巻き込まれなければ良いがと案じられるのである。北朝鮮では我々日本人にはまだまだ理解出来ない常識がたくさんあるのである。


 約1時間半のアリラン祭公演はあっという間に感じられた。北朝鮮を認められない人でもこれを見たらこの凄さはだけは認めざるを得ないだろう。それくらい凄いインパクトのある公演だったのだ。高い旅費を払って高い特等席で見ただけのかいはあったのだ。

 アリラン祭公演が終わると外はすっかり暗くなっていて、スタジアムを後にする人や車でごった返していた。警備員に人ごみを裂いてもらい帰りの群衆から抜け出した。何だかんだ言って数少ない日本人観光客は数の多い中国人観光客より待遇がいいようだ。そして我々のオンボロハイエースは暗闇の平壌市内をホテルへ向かってスタジアムを後にした。ホテルまでの車中ピンクシャツは明日もアリラン祭が見たいなどと寝言を言い始めた。遠慮というものを知らない奴なのである。


 ホテルに着くと明日の予定が森健ガイドから説明された。明日は朝から開城に向かい軍事境界線のある板門店見学なのである。朝出来るだけ早く出ないと現地に着いてからかなり待たされると言う理由から明日の起床時間は6時と告げられた。ろっ6時って?!マヂかよ!もう寝るのである。












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